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「ひとりだけ、目が冷めてる」
「別に。だってあれ、光茸でしょ?」
「気づいてたのか?」
 意外そうにカイは目を見開いた。
 光茸とは文字通り、発光する茸の通称である。食用には向かず、摘み取ってしまえば灯りの代わりにもならないため、生えている土地以外では見ることもない。特に存在を意識したことのない者がこの緊張した状況で見つければ、確かに怯えても仕方がないと言える。
「気づいたっていうか、昔、そこらじゅうに生えてましたから、人工の光との違いくらいわかります」
「なるほどな。すごく図太いのかと思ったよ」
「……莫迦にしてます?」
「いや、褒めてるよ。いくらそうと知ってても、普通は周りに引きずられるからな。たいした度胸だ」
 微妙にけなされているな、と思いながらテアは、小さく肩を竦めた。度胸と言うよりも、どちらかといえば自棄に近い思考回路なのだが、敢えてカイにそう指摘する必要はないだろう。
 それよりも、とテアは先ほど抱いた疑問をと口にする。
「カイさんは、傭兵だったんですよね?」
「そうだが?」
 急な話題転換に、さすがに面食らったようにカイは何度か瞬いた。
「どうした、急に?」
「正直、もっと怖い人たちばかりだと思ってたんですが」
 時々鋭い雰囲気を見せるが、基本、カイは依頼人であるテア以外にも親切である。今し方の件にしても、充分すぎるほどにお人好しだ。傭兵という言葉から来る粗野、或いは乱暴というイメージとはかけはなれている。
 言えば、今度はカイも苦笑したようだった。
「状況に合わせてるだけだ。一般人相手に凄んでも仕方ないだろ」
「それはそうですけど」
「傭兵にもいろいろいる。妙に義理堅いのから金の為に何でもする奴までいろいろだ。俺はまぁ、戦力にするために拾われて育てられたが、幸い虐待は受けなかったから、妙な性癖も弱い者を虐げて喜ぶ癖もつかなかった。運のいい部類なんだろ」
「拾われた……?」
「俺が覚えてる一番古い記憶は、半分腐った飯を奪い合ってるところだ。捨てられて、貧民街でうろうろしてたんだろう。そこがどこなのかも覚えちゃいないがな」
「……すみません」
「俺が勝手に喋ってることだ。謝る必要はない」
 カイは拘る様子もなく言い切るが、テアとしては申し訳ないという気持ちが拭えない。自己嫌悪に口を引き結べば、カイはもう一度苦笑して寝るようにと促した。
「おやすみ」
 そう言われれば、テアに逆らう余地はない。
 全く眠れそうにない体で寝返りを打ち、その度に空を見上げ、テアは何度も嘆息を繰り返した。



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