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 Epilogue−75 years after

『……を始めとし、夫妻はその後も、フラン・グル遺跡や地下墳墓の発見に貢献した。これらの遺跡は小規模ながら殆ど盗掘の被害にもあっておらず、その歴史的価値はデネル遺跡群に匹敵するほど高いと評価を受けている』
 薄い紙を捲り、その後は他の話に移っていることを確認してから、少し笑う。
「――とその手の世界では一定の評価を得ているが、実際のところ、妻テアの驚異的なトラブル巻き込まれ体質と夫カイの卓越した危機回避能力及び戦闘能力により、ほぼ偶発的に見つけていたという事実は、あまり知られてはいないのであった」
「何、人の教本読んでるんだよ!」
 顔を赤くしながら割り込んできたのは弟である。
「それに、変な言葉付け足しやがって!」
「いや、正確なところを語り継ぐのは人類の義務だと思って」
「そんなこと、どうでもいいよ!」
「でもなぁ、じーさんとばーさん自身がそう言ってたからなぁ」
「ずるい!」
 何がずるいのか、胡乱気な視線を送れば、弟は拗ねたように口を尖らせていた。
「僕は殆ど、祖父様と祖母様の記憶がないんだぞ! ずるすぎる!」
「様って……、まぁ、あんだけ死にそうになかったのに、お前が赤ん坊の頃に流行病でぽっくり揃って逝っちまうんだから驚いたわなぁ」
「ぽっくり言うな!」
「でも、はっきり言って、平均八十歳の大往生だし」
 風邪かしら、眠いわぁ、風邪かな、とっとと寝るか、と言って引っ込んだ翌朝に冷たくなっていたふたりを見て、家族一同泣くよりも先に呆れたほどだ。今では祖父は、祖母の体質を心配して彼岸まで付いていったのだ、と笑い話になっている。
「……さて、そろそろ行くか」
 弟の教本を置き、伸びをしながら立てば、そこで始めて父親が視線を向けた。
「気をつけてな」
「焦って失敗すんなよ」
「しねーよ。俺はばーさん譲りの図太さで生きてんだ」
 片目を瞑り、顔をしかめる弟に向かい口端を曲げる。そうしてふと表情を改め、父親へ向き合うように体を反転させた。
 背筋を伸ばし、軍隊式の敬礼を取る。
「では、シドラ軍第一騎兵師団、入団式へ行って参ります!」

 ――蒼い空の下、新しく整えられた町並に、人々の笑い声がこだましている。

(了)


>あとがき





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