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 次に体を襲った衝撃に、ルークは息を詰めた。勢いのままに数段転げ落ち、玄関ホールの冷たい床が頬を打つ。
 直後、目の前に白い閃光。砕けた床の一部がルークの額を切り裂いた。
「……大人しくしてろ」
 低い声と共に、仰向けに転がされたルークの胸に靴が乗る。
「くっ」
「心配するな、すぐに楽にしてやる」
「……っ!」
 冷えた声。同時にヒュオ、ともの悲しい音が広いホールの中に響き渡った。夜の空気が室内を吹き荒れる。その下で、いつの間にか落ちていた厚いマントがその風を受けてたわみ、幾つも付着していた硝子を転がした。
 儚い音と共に、その場に居る者の視線を誘うように僅かな光を弾く。
 何かに魅入られたような、数秒の沈黙。ルークは、己を踏みつける男の顔を凝視し、そして呆然としたまま呟いた。
「君は……」
「黙ってろ」
「うっ」
 加重に耐え切れず、ルークは小さく呻く。代わりに玄関扉に近い方向から別の声が、呆れたような響きを持って発せられた。
「こりゃ驚いたな。生きてたのか」
「生憎と、死に神には嫌われている」
「あはは、そうか、そうだねぇ、違いないねぇ」
 男は、さも愉快なように嗤う。
「それで? 折角生き残ったのに何しに現れたんだい?」
「……こうするためだ」
 その語尾が消える前に、ルークは再び苦痛の呻きをもらした。二度目は重さが乗ったのではない。その足で、右肩を存分に蹴り上げられたのだ。
「う……、ぁあっ」
 床の上を転がったルークを、また重い靴が止める。今度は俯せだ。成人男性の体重が充分に乗った靴と硬い床に挟まれ、胸郭も腹も思うように動かない。必然的に呼吸困難となり、ルークは忙しく呼吸を繰り返した。
「あーあ、それ、脱臼くらいはしてるんじゃないかい?」
「だろうな」
「なに? そうやって痛めつけて満足してんの? それともそういうパフォーマンスで謝罪でもしてんの?」
「まさか」
「へぇ? じゃあ何? ああ、運びやすくしててくれてんの?」
「……」
 答えはない。その口元は笑みを浮かべたようだった。
 そしてまた沈黙。
 やがて焦れた男が、再び口を開いたときだった。


「オルブライト様!」
 玄関の扉が大きく開かれ、壁掛けの灯りが、淡い金髪を弾く。なりふりなど構わないといった様子だ。
 だが、だからこそ、聞こえたはずの前触れに気づけなかったことに驚いたか、男は一度目を見開いたようだった。
 同時に、喋りかけていた口を閉じ、舌を打ち、厨房の方の暗がりへと素早く待避する。
「長官……、……!?」
「オ、オルブライト様!!」
 ふたつの声。そして開け放たれた扉の向こうに馬蹄の響き。
 やがて足音が玄関の床を叩く。


「……レスター?」
 荒い息のもと呆然と告げられた声が、この夜の第二の局面の始まりを告げた。


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