[]  [目次]  [



「伝言は聞いたと思うが、ユーイングを連れてきたのは故意か偶然かどちらだ?」
「会ったのは偶然で、連れてきたのは面白そうだからだよ」
 こちらも、相変わらずというべきか。
「それで? ミクソンの過去だっけ? 僕に連絡寄越してから何か判った?」
「それが、さっぱりだ」
 隠すつもりもなく、むしろ隠すだけの情報もなく、レスターは素直に両手を挙げた。これが仕事であるならば、あの手この手ではぐらかしつつ、はったりで相手から情報を得ようと画策するところだが、今やっていることは、どれだけ勿体付けたところで単なる好奇心に過ぎない。
「どの資料をひっくり返しても、王宮に入る前にミクソン家に養子に入ったところからしか出てこない」
「そうなんだよねぇ」
 肩を竦めて頷くダグラスも、触り程度は調べてきたのだろう。肯定する表情の一部が途方に暮れている。
「生家については特に有力な情報もなしだ」
「セロン・ミクソンが出世するまで、ミクソン家はせいぜい王宮の下っ端役人の端に引っかかる程度が最大の出世だったってらしいし、養子のくだりもごく普通に跡取りがいなかったからってだけだったよね」
「……王宮に雇われるのに、身元もはっきりしていないってのはおかしいんじゃないかい?」
 ダグラスに話を聞きかじっていたのだろう。胡乱気に言うアランだが、話題自体には興味があるようだった。
「一応、ミクソン家出身ということで身元は確認できたことになっている、ってことじゃないかなぁ」
「傭兵上がりの婿養子や、もと娼婦を養女にして王宮へ送り込むなんてこともあるくらいだからな。名門でもなんでもない家の子供なら、それこそ家の前に棄てられていたとかも充分にあり得る」
「だけどさ、その時既に王宮は組織の母体ですって秘密があったんだろ? 出世途中で政府からの手の者じゃないかって調べられてもおかしくないはずさ」
「つまり?」
「別に、探す術がないわけじゃなくて、どこかにはミクソンのルートが残ってるって事」
 一理ある。思いつつもレスターは敢えて反論を口にした。
「だが、なんらか事件があって、捜査官が調べているのとは訳が違う。微かなルートを追うにも手だてがない」
「ミクソン自身を調べるから駄目なんじゃない?」
「と言うと?」
「僕なら、メイヤーをもっと調べるね。気にならないかい? 数多居るメッセンジャーとして都合の良い人間のなかで、何故ミクソンはメイヤーを選んだのか」
「……なるほど」
 有名な建築家だから。立場上、本来人が入りにくい場所にも入ることが出来るから。
 利点を挙げてみれば幾らでもあるが、だからといって他に名工がいないわけでもない。気むずかしいと誰もが口を揃えて言うメイヤーよりも、もっと扱いやすい人物もいただろう。
「しかし、メイヤーか」
 高名な人物ではある。だが彼もまた、仕事に対しての情報の多さに比べ、その出生や名が売れるまでの経緯についてはあまり知られていない。
 自身の手による隠蔽などはないとしても、それなりに骨の折れる話であることは考えるまでもないだろう。
「ダグラス、何か知ってるか?」
「アラン、何か知ってるかい?」
「僕に振るなよ、……と言いたいところだけど、メイヤーの弟子だったって人がいることを知ってる」
「王宮に出入りしていたときのか? あれは……」
「そうじゃないさ。それは多分、あんたの考えてる通り、リドリーなり手下なりが弟子の振りをしていたんだろ。そうじゃなくて、それより前にいた弟子さ」
「そんなのがいたのか?」
「実際は弟子っていうよりも、手の回らない部分を補うための補助役だったらしいけど」
「前から知ってたのか?」
「まぁね。ただ、別にたいした情報は持ってなかった。王宮の増築時は解雇されてたし、人身売買組織関係の建物に携わるときは自然に外されてたらしいから、事件の真っ最中は気にもかけてなかったけど」
「どこに行けば会える?」
「さぁ、今はどこにいるのか知らないな。東の街を拠点に活動してるってくらいしか」
 肩を竦めながらアランが告げた名前を口の中で反芻し、レスターはダグラスの方へ向き直った。
「東へ行く用事はあるか?」
「悪いけど、まだ西の方の用事の方が多いなぁ」
 特捜隊でなくなった今、ダグラスやレスター程度の地位では、勝手に公務を休むことなど出来はしない。比較的自由が利くのはヴェラだが、遠出となると話は変わる。女のひとり旅はそれなりに物騒でもあるのだ。
「と、なると、クリストファーか……」
「ま、そうなるね」
 二月の御前試合に向けて各部隊調整の進む中、復帰をかけて訓練に勤しむクリストファーを巻き込むのは気が引けるが、他に適当な人物はいない。嫌なことは嫌と言える男でもある。断られればそれまでと、割り切って話を持ちかける分には問題ないだろう。
 そう判断し、レスターはふたりに断りを入れて踵を返す。
「……何故付いてくるんだ?」
「え、情報だけ聞いて、それじゃさよなら、ってそれはないんじゃない?」
「情報を出したのはユーイングだが」
「やだなぁ、そのアランを連れてきたのは僕じゃないか。ねぇ、アラン?」
「僕に同意を求めないでくれる? それに僕はエルウッドについて行ってるわけじゃない。僕がクリスに用があるだけさ」
「……」
 どいつもこいつも、と言ったところか。
 純粋に、あやふやなまま終わっていたことが気になるというわけでもないだろう。単にそうした前段階があり、たまたまもと特捜隊が一箇所に集まったという現状があり、それならばついでに顔を合わせようじゃないかという、お祭り好きの思考回路だ。
 特捜隊の面子と馴れ合うつもりなど全くなかった、利用するだけと嗤っていたころのレスターであれば、はっきりと顔をしかめていただろう。
 なんだかんだと丸くなった自分を自覚しながら、レスターは諦めと説明の付かない感情の間で小さく苦笑した。

 *

「すまない」
 扉を開けたときにはあっただろう笑顔を早々に引き攣らせたステラを見て、レスターは開口一番に頭を下げた。彼の後ろには、三人の男がいる。
「こんにちはー」


[]  [目次]  [