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「……覚えてないな」
「無理もありません。私が駆けつけるのも時間を要しました。今回はかなり、事態が進んでからの術掛けとなりましたから」
 この場合の、ラギの言う術とは、ジルギールを止めるための三人掛かりの方を指すのだろう。
 暴走を起こした肝心のその場に、事態をくい止めるための一角が欠けていた状況を、遠回しに謝っているようでもあった。或いは、今回、ここまでの大惨事を引き起こした原因は、ジルギールひとりにはない、ということを弁護しているのかもしれない。
 飛鳥と同じ感想を抱いたのか、興味深げな視線がさらに二対、ラギの方へと向けられた。それに気づき、ラギは鼻の頭にしわを寄せる。
 だが、それについては言及せず、話題を変えるように彼は言葉を継いだ。
「今日のところはここで休みますが、今後はどうなさるおつもりで?」
 事務的な口調に、ユアンやオルトが肩を竦める。飛鳥も短く苦笑し、次いで回答を求めるべく、ジルギールに向き直った。
「もちろん、王都に向かう」
 ジルギールは、ちらりと飛鳥を一瞥する。
「ただし、もう、町には滞在しない」
「ルートの変更は?」
「もうひとつ、ふたつ、東の方に大回りするつもりだったけど、それは変更する。その方が、余計な混乱は避けられるからな」
「では、まっすぐに、王都方面へ向かわれるということで?」
「時間の短縮にもなる。その方がいい」
 はじめの町で決めたルートは、主立った軍事拠点は通らずに、主要街道から逸れた道を進むというものだった。しかし、ひとつの街を滅ぼしてしまった今、どの道を通ろうとも軍が待ちかまえていることは必至、どのみち衝突が避けられないのであれば、わざわざ遠回りをする意味はないだろう。
 また、エルリーゼ姫、引いてはセルリアを刺激するという目的は、ある意味強烈に過ぎるほど達成された。これ以上、敢えて姿を見せる必要はない。
「できるだけ目立たないように、廃村とかを通って、このまま北上する」
「判りました。そのように手配します」
「……アスカには、ちょっとキツい旅になると思うけど」
「いいよ。こっちは連れていってもらってるわけだし」
 風呂に入らない生活も、日に二度の食事も、案外、必要に迫られれば慣れるものだと実感している。体力的についていけない事は判っているが、こればかりは、彼らの気遣いに甘えるより他ないだろう。
 飛鳥の同意を確認し、ジルギールは宣告するように立ち上がる。
「じゃあ、明日からは避難民を避けつつ、王都へまっすぐに向かう。今日のところは、まぁ、各自適当に寝床確保だな」
 破壊の痕以外何もない周囲を見回し、四人はそれぞれの表情で頷いた。


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