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「何事だ」
 途中、緊張した面持ちの騎士に、ウルラは声高く呼びかける。
「笛が鳴ったようだが」
「魔物です、副団長!」
 もはや聞き慣れてしまった言葉に、ウルラは顔を顰めて部下を見遣る。
「何をしても倒せなかったあれが――、消滅待ちをしていたあの魔物が、急に暴れ始めました。番の者が大怪我を負っております」
「今頃か? あれは特に今まで何をする様子もなかったはずだが」
「しかし、現に、縄を解かれたかのように、暴れ回っております!」
 どういうことかと、ウルラは首を傾げた。
 辺境に出没していた魔物の内の殆どは、聖眼の王子により消滅していたが、一部、狩りもらした魔物もあったようである。騎士団内を落ち着かせた後、ウルラはもうひとりの副団長とでそれらを討伐したのだが、弱らせることは出来たものの、王子のように倒すことまでは出来なかった。王子の言ったように、何者かに制御されている状態なのか、積極的に人を襲い来る様子はなかったため、騎士団砦内奥深くに閉じこめておいたのだ。
 いずれ人の気に負けて消滅するまでと、様子を見ていたのだが――。
(制御が、解けたのか?)
 ウルラは、その考えに、体を震わせた。喜びと緊張が、同時に走る。
「ウルラ殿、騎士が魔物を刺激するという可能性は?」
 牢へ向かいながら問いかける大隊長に、ウルラは首を横に振ってみせる。この数ヶ月で、コートリアの騎士達の間に、魔物の力の程は知れ渡っている。恐れる者こそあれ、軽んじる者は皆無といって良いだろう。
「では、何か変わったことは?」
「ありません。あるとすれば、私どもの方に理由はないのでしょう」
 魔物を制御していた方に異変があったのだ。
 予感に逸るウルラの元へ、金髪の騎士が駆け寄った。
「申し上げます!」
 コートリアへ真実を持ち帰った騎士は、頬を紅潮させて声を上げる。
「急報! 離宮が――離宮が、炎上しているとの報が入りました!」
 


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